七彩マネキン物語
第10話...話題をよんだスーパーリアルマネキン
スーパーリアルマネキン「PAL」は、戦後世代(ニューファミリー)をターゲットにした生活提案型売場展開の演出要素として、これまでマネキンに縁がなかった家具家庭用品や食品売場にも登場したことは前回も述べましたが、それまでどちらかと言えば“創作人形風”であったマネキンが、一気に実在の人間に近づいたことへの人々の驚きと関心は想像以上でした。1976年当時の新聞記事がそのことを物語っています。
「洋マネの新顔が、通称“スーパーリアリズム”のリアル派。遠くから見るとまるで本物そっくり。座ったり、寝そべったりの人形たちで、日本橋の高島屋では、昨年から家具売場に登場しています。増築で話題をよんだ池袋の西武でも、家具、スポーツ、ホビー、オーディオ売場などのムードづくりに大活躍。マネキン本来の服を見せるばかりでなく、生活観を出すというのですから、人形たちも忙しくなったものです。」/1976年1月26日付 朝日新聞
「そこにギターを弾いてるのがあるでしょう。わたしたち太郎クンて呼んでるんだけれど、彼、お客さんにしょっちゅう話しかけられてるんです。人形だと分かった瞬間のお客さんの顔ったらありませんね。グループでみえた中学生の女の子なんか悲鳴あげちゃったりして」 西武池袋店楽器売場/1976年2月3日付 報知新聞
「特別美人に作ってないから余計間違えるんでしょう。乳頭なんかリアル過ぎて人目のある店内ではとても服を脱がせられません。若い男の人の中には、通り過ぎてからもどってきて、わざわざ触ってみる人もいます。そうですね、日に2〜3人はいますよ。血管、毛穴までそっくりに作ってあるので興味が湧くのでしょう。西武池袋店婦人服売場/1976年2月3日付 報知新聞
「これ人間、それともマネキン」!!東京・池袋の西武百貨店本店に、昨年秋から登場した人間そっくりのマネキン人形が話題を呼んでいる。その名もスーパーリアルマネキン。(中略)これは、同店が増築完成とともにライフスタイル別の商品陳列方式に踏み切った際、京都のマネキン人形製造会社「七彩工芸」から導入したもの。実在のファッションモデルを模して、手のしわ、ソバカスまでそっくりに作りあげられている。(中略)一番反応が敏感なのは、若い女性客。このマネキンが2体中央に飾ってある8階の手芸用品売場では、ギョッと立ち止まる人、近くに寄ってまじまじと見つめる人、店員と間違え話しかける人、など、一日中小さな騒ぎが繰り返されている。」/1976年2月16日付 日経流通新聞
こうして東京から広がりを見せたスーパーリアルマネキン熱は、やがて全国に波及しました。1970年代後半から1980年代初頭における日本の百貨店は、生活提案やファッションイメージをビジュアルに訴求することに力を注ぎました。その中で、マネキンはより人間化し、やがてリアルであることが特別なことではなくなったのです。この時代の百貨店のプレゼンテーションは、楽しさにあふれていました。例えば伊勢丹新宿店の1階は、まるで劇場空間のようでした。リアルなマネキンたちは、美しくヘアメークが施され、素敵な衣装を身に付け、眩いスポットライトを浴びていました。
(つづく)
西武池袋店のスーパーリアルマネキン「PAL」たち