七彩マネキン物語
第25話...日本人の平均的人体寸法ダミー発表
国産のマネキンは、通常JIS規格に対応した日本人の標準サイズの既製服が着こなせるように身体が作られています。人間が着る既製服を着こなすマネキンを作ることは、口で言うほど簡単ではありません。静止状態で服を美しく見せるためには、骨格や筋肉の構成はもちろんのこと、複雑で微妙な曲面の連続から成り立っている身体フォルムを動態的に熟知しなければなりません。さらに良いマネキンを作ることは、こうした基本的な知識や造形技術に加えて、時代感覚を形に表すことが決定的です。
1995年以来今日まで、社団法人人間生活工学研究センターと七彩が共同で開発して来た「日本人の平均的人体寸法ダミー」は、こうした感覚要素の強いマネキンとは対照的に、127項目に及ぶ人体計測データ(平均値)を基に計測を重ねながら手仕事で作り上げた全身Mサイズのダミーです。これはマネキンのように、店頭で服を見せ販売する目的で使用されることはありません。主として人間の身体に密接な関係を持つ各種製品
(衣服等)の設計及び検証用に利用されるものです。マネキンは、現実を投影しながら理想の美しさを与えることによって、訴求効果を高める役割を持っていますが、「人体ダミー」は、現実をありのままに客観的に認識するとともに、製品の標準規格を定める指標なのです。これまで「20代男女」「40代女性」「70代女性」の4種を発表しています。
最初に完成した「20代女性の平均的人体ダミー」を大阪で開催された「ワールドファッショントレードフェア」に出展したところ、大きな反響が寄せられました。その時の要望を生かして、その後「裁断用ナチュラルヌードボディ」を開発。このアプローチは、現実の人間(顧客)の体型やサイズを踏まえた服づくりを指向されていたパタンナーに大きな共感を呼びました。オーダーメードの服は、個人の身体に合わせればよいのですが、既製服の場合は基準となるものさしがなければ、経験と勘に頼らなければなりません。マーケットインの大切さはわかっていても、現実が認識出来ない中でのものづくりは試行錯誤の連続にならざるを得ないのです。今日では、ターゲットの身体データと顧客満足度を高めるための現実を理想化した服づくりのノウハウを結合させた、メーカー独自の裁断用ヌードボディの開発へと拡がりを見せています。
その他「人体ダミー」は、ひとがたをした実験用装置の開発にも役立っており、ここ6〜7年の間に、マネキンで培った、七彩の人体造型技術は、「人間中心のものづくりの考え方」と出会って、新たな可能性を拡大させてきたのです。(つづく)
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20代日本女性の平均的人体寸法ダミー
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計測を重ねる
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粘土原型完成
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WFTFで発表