七彩マネキン物語

第21話...空間とマネキン

歴史的に見てマネキンが最初に出会った空間はショーウィンドーです。ガラスの外は現実世界ですが、マネキンがきらびやかな服を着て存在するガラスの中の空間は現実とは隔絶された異次元の世界でした。時代は進み、世界の高級ブランドの服でさえ、特別な存在でなくなった今日では、ウインドーの中と外の関係にさほど差異を感じなくなりました。それでもウインドーの中は密閉された空間に変わりはありません。

1970年代後半に一世風靡したテクノポップの元祖クラフトワークの「ショールームダミイ」は、ガラスを破壊して自由に歩き始めるダミイ=マネキンのイメージをサウンド描写しています。それは、人工空間における人間の閉塞感をマネキンをモチーフに描いているように感じられます。

1980年代の半ばから90年代初頭における七彩展の企画メンバーは、マネキンを様々な空間に解き放つことによって、空間とマネキンの融合を意図しました。そして七彩展の空間演出とDM、新聞、雑誌広告、カタログのビジュアルイメージを一貫したものとしました。

1985年のカタログの空間イメージを、悠然と流れる川と悠久の時を刻む森林に求めました。ロケ地として、夕陽を背景にした長良川の河畔と昼なお暗き北山杉が林立する京都中川を選びました。マネキンは第16話で紹介したヌードの「REY」。長良川では、西の山並みに沈んだ直後の夕陽の色で空と川面が染まりました。上空を仰き見ると三日月と一番星が輝いていました。「REY」は補助光を使わず、あるがままのシルエットで撮影しました。一方、京都中川の鬱蒼とした真昼の杉木立の内は外の快晴がまるで嘘のように、薄ぼんやりとした暗さの中にパール色で塗装されたヌードの「REY」が、鈍い光を受けて浮かび上がりました。現実には存在し得ない空間に置かれたマネキンでしたが、その美しさは、人工空間では得ることの出来ない美しさでした。この時の七彩展の空間は、京都の北山杉の林と竹林を借景に見立てた石庭でした。(写真Aが長良川、Bが京都北山)

1988年の晩秋、スーパーリアルマネキン2体を車に積んで、吹雪の峠を越え、満天の星空の下をひた走り、北海道の東の果て野付半島に向かいました。1989年の七彩展とマネキンカタログのイメージ写真を撮影するための旅でした。撮影の対象となったマネキンは、実在の人間をマネキン化したスーパーリアルマネキン「FIT」でした。翌朝、水面はすっかり凍結し、立ち枯れの樹木が横たわり、息も凍りつくかのような荒涼とした風景の中に、地の果てまで逃げ延びてきた若き男女が抱き合っているシーンを写真に収めました。(写真C野付半島)この時の七彩展は、夕焼けの中に立ち枯れの樹木が林立し、こうもりが群舞する空間にマネキンを融合させました。

1980年代以降、このように空間とマネキンの関係を意識する中で、空間にさりげなく自然体で存在するマネキンの創造に積極的に取り組んだのでした。(つづく)

  • 長良川

    A:長良川

  • 京都北山

    B:京都北山

  • 野付半島

    C:野付半島
    photo : FUJII